介護の現場で働く上で、避けては通れないのが認知症への理解です。認知症の症状は多岐に渡り、なかでも特に注意が必要なのが徘徊です。徘徊は、一見すると目的のない行動のように思えるため、対応に苦慮する介護職も多いのではないでしょうか。しかし、徘徊には認知症を抱える方の心情や置かれている状況が色濃く反映されています。認知症によって脳の機能が低下すると、記憶力や判断力、そして現在自分が置かれている状況を把握する見当識といった認知機能が徐々に失われていきます。そのため、自宅や施設など、本来であれば安心できるはずの場所にいるにも関わらず、不安や緊張を感じ、そこから逃れようとすることがあります。また、過去の記憶や習慣に基づいた行動を起こすことも少なくありません。「家に帰りたい」「仕事に行かなければ」といった過去の記憶が鮮明によみがえり、現在と過去を混同してしまうことで、目的もなく歩き回ることがあるのです。さらに、運動不足や睡眠不足、ストレスなども、徘徊を誘発する要因となりえます。体や心が満たされない状態が続くと、それを解消しようと無意識のうちに歩き回ってしまうことがあるといわれます。重要なのは、徘徊を「困った行動」と捉えるのではなく、認知症を抱える方のSOSのサインとして受け止めることです。「何かを探しているようだ」「落ち着かない様子だ」など、行動をよく観察することで、その時の気持ちや訴えが見えてくるかもしれません。焦ったり叱ったりするのではなく、まずは落ち着いて、寄り添う姿勢を忘れないようにしましょう。認知症ケアにおいて、徘徊への適切な対応は、介護職員の重要な役割の一つです。